秋の遠征

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秋の乾いた風に乗った潮の匂いが鼻をくすぐる。
前夜は、近くに釣りにきていた職場の先輩たちと焚き火を囲んだ。夜も更けて、日のそばで横になっているといつの間にか眠ってしまっていた。
火も絶えたころ、寒さに目が覚めてシュラフにもぐり込む。
6時半に目が覚めると、眩しい朝日と、海はこれ以上ないベタ凪だった。

抜けおきに熱いコーヒーを入れて、のんびり昨夜の片付けをする。

朝のわずかな時間、カヤックで釣りに出て、今日の朝に合流する友人が来るまでの時間を過ごす。

昨夜の宴の友は、早々に釣りにでかけてしまって一人だった。

午前10時に友人と合流。早速カヤックを出した。
鏡のような水面を、カヤックは飛ぶように進む。

外洋に面した、いつもの浜に着くと、フィンを履き、マスクをつけて早々にエントリー。
フードが暑くもなく、冷たくもなく、絶好の季節を感じた。
海中の魚影も濃く、少し濁りを残しているが、問題ない。
少し泳いだところで相方と別れた。

僕らがえぐれと呼んでいる、魚影の最も濃い根があって、
それを左回りと右回りでそれぞれアプローチしていくのが、いつの間にか定番のコースとなっている。

左回りは、浅場から一気に深場に落ち込んだ先に、えぐれ一のお魚スポットがある。
こちらは相方が。

最初から深さがあって、底で息さえもてば広く魚をサーチできる右回りを僕がいく。
言葉をかわさずとも、互いにいつの間にかそのコース取りになっているあたりが相方たる由縁だと思う。

根にとりついて潜行。ファーストダイブは体がまだ慣れておらず、息があまり持たない。それでも魚を散らしてしまう前の、踏みあとつく前の雪原のような海中は最も魚の気配を感じられ、気合いだけは一番入る。

水深10mほどでボトムに着低。
顔あげるといつもは見られないハタ系のなにが岩の上に鎮座している。
しかし、撃てる位置を移動すると水の揺らぎに反応して穴の奥へ逃げてしまった。
期待が膨らむ。

その後、何度か潜行を繰り返して右回りにボトムを探していくが、良い出会いはなく、左から来る相方とすれ違った。

引き返すか迷うところであったが、一旦散らしてしまった魚が戻ってくるのを期待して、このまま右回りに根を一周することにした。

えぐれの裏側は水深が浅く、期待が薄い。水面から流し見で魚影を追うが、一度も潜らぬまま根を一周ぐるりと回ってしまった。

さぁ二週目と、いうところで少し攻めかたを変えてみようと思った。
えぐれの裏から潜行して、ボトムを這って、岩肌を回り込んでいく作戦だ。
真上からいくよりも水の動きが少ない。
意を決して潜る。
左側面そびえる岩肌を回り込んで、視線がえぐれの方に向いていくその時、目の前を大きなイシダイが横切った。
僕の気配を感じたか、ひらひらと距離をとっていくその時、もう手から銛は放たれていた。
いた、と見てから獲れると判断するまでの一秒の間が凝縮されて、獲れると思った時にはすでに放たれた銛はイシダイを貫いていた。

暴れるイシダイを引っ張りあげてナイフで絞める。
一連の動作の中で達成感に満たされた。
至極の一匹に満足した僕は、早々に切り上げて帰路につく。
浜で一服をして、ふらふらと帰り際までくまなく魚を探す。
相方を見て、ああボウズっぽいなぁとクーラーから飛び出すイシダイに目をやってニヤリと笑った。

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一晩寝かせて、鯛しゃぶに